ユナイテッドがゲートでの搭乗方法を変更~取り組みは前向きだが効果には疑問~

9月18日からユナイテッドの搭乗方法が変更された。搭乗にかかる時間を短縮するというよりは、個々の乗客が行列に並ぶ時間を短縮するのが目的。これまで、5つの搭乗グループそれぞれに列を作っていたものが、列が2つに削減されて、5レーンが2レーンになる。

一見シンプルになって良いようだが、おそらく思ったほどには機能しないだろうし、先を争って搭乗する根本的な原因に対処するものではなく、あえて言えばどっちでも良い変更。この変更に合わせて行われた搭乗グループ分けの見直しの方が現実的にはインパクトを感じるものだった。

【新たな搭乗方法】
新たな搭乗方法の導入後も、5つのグループ分けがあることには変わりなく、単に列の数が減るだけ。では、どうするかというと、事前搭乗の間はAレーン(青)にグループ1の乗客が、Bレーン(緑)にグループ2の乗客が並んで待つ。事前搭乗の後、Aレーン(グループ1)、Bレーン(グループ2)の順に搭乗。グループ2の搭乗が終わったら、グループ3以降がBレーンから順次搭乗していく。その間、Aレーンは後から来たグループ1・2の乗客のためにリザーブされる。

【新方式のポイント2つ】
この方式の導入には、2つのポイントがある。
① まず、電子サイネージを導入して、レーンの使用状況を搭乗の進捗に応じて変えていくこと。Aレーンは最初はグループ1用だが後からグループ1・2用となり、Bレーンは、まずグループ2用で続いてグループ3~5用となる。混雑状況に応じて3のみ、3~5といった使い分けをするのだろう。これは従来のボードでもできなくはないが、いちいち切り替えるのが面倒。
② 次に、グループ3~5の乗客は、搭乗が始まるまで並ばずに出発ロビーの椅子に座って待つことが予定されていること。そのため、これらの乗客にとっては行列に並ぶ時間が短縮されることになり、これが今回の変更のセールスポイントになっている。

【新方式には大きな効果はないだろう】
では、新たな方式は機能するのだろうか。
以下のような理由で、残念ながら大きな効果は期待できないだろう。しかも、上級会員にはまるでメリットのない変更になっている。

1.グループ3~5の乗客が座って待つのか
これはなかなか期待できない。なぜなら、先に搭乗するグループの乗客が並び始めた段階で、自分たちの順番になったら最初に搭乗できるように、Bレーンの最後尾付近に溜まっていくことが予想されるから。レーンの仕切りテープがあり、グループ2の列がそれ以上に長い場合には、仕切りテープが切れるあたりに溜まることになるから、これまでと混乱度合いは変わらないだろう。しかも、先を争って搭乗したい乗客は比較的大きな荷物を持ち込もうとしている場合がほとんどなので、レーン最後尾付近の混乱状況が改善されるとは思えない。持ち込み荷物が少なく、自分の座席が確保されていれば構わない乗客は、これまでもベンチに座って列が短くなるのを待っていたはず。

2.グループ1・2の乗客が並ぶ時間は変わらない
ユナイテッドの説明を見ると、グループ1・2の乗客は事前搭乗の間は並んで待つようにとは書いていないが、結局並ぶことになるだろう。そうなると、グループ1・2の乗客にとっては列に並ぶ時間が短縮されることにならない。

3.Aレーンが優先搭乗レーンとして確保されるか
これまでの方法だと、自分のグループとレーンの対応関係が崩れることはないが、Bレーンからグループ3以降の搭乗が始まった後に、Aレーンが空いたままの状態を保てるだろうか。実際に搭乗が進んでいくスピードは変わらないとしても、ほとんど使われていないレーンが丸ごと空いていて、1レーンしか使わずに列がノロノロ進んでいるように見えてしまうのは、並んでいる人にとってストレスが溜まることだろう。そうなると、空いているレーンになだれ込んでくることもあり得なくはない。そうでなくても行列が長くなるという問題が生じる。

【真の課題は持ち込み荷物の縮減】
搭乗の方法を巡っては、様々な工夫がされてきているし、改善に向けた努力を重ねるのは良いことだ。しかし、原因となっている問題の解決に取り組まない限り、実を結ぶことは難しいだろう。
では、なぜ先を争って搭乗するのかというと、荷物の収納という問題に帰着する。
後から搭乗すると、機内の収納スペースに余裕がないから、どうしても先に搭乗しようとすることになる。アメリカの国内線や途上国の路線では、とにかく機内持ち込み荷物が多い。
荷物を預ければよいのだが、そうすると到着してから荷物が届くまでに時間がかかる。単に時間がかかるだけならまだしも、荷物が壊されたり、違う便に載せられてしまって同じフライトで届かないことも決して少なくはない。利用空港によっては盗難のリスクもある。そう考えると荷物を預けないというのは現状では合理的な選択でもある。これに拍車をかけているのが、チェックインラゲージ有料化の流れ。LCCがコスト削減のために導入したが、いわゆるレガシーキャリアも国内線を中心に預け荷物有料化を進めている。
こうして、機内持ち込み荷物が増えてくると、搭乗にも時間がかかるようになるので、ボーディングブリッジを含む通路で待たされることを嫌う乗客は、大きな荷物が無くても早く搭乗して席に着くことを希望するようになる。

【解決策は】
搭乗方法に絞れば、色を使う方法がある。搭乗レーンの色分けを徹底して、青・緑と固定せずに、グループに色を割り当てて、レーンの色も変える、床の色を変えるのが無理であれば、せめてサイネージの色を変えるようにすればよい。搭乗券の色もグループごとに揃えるようにすれば、より効果的だろう。視覚に訴えて誘導してズルをしにくくするのである。ただし、搭乗券のカラー印刷はコストがかかるので難しいかもしれない。昔のJALの搭乗券は赤・青・緑だったが・・・

待合スペースを区分して、優先搭乗対象者のみがそのエリアに入れるようにすれば、混乱は多少は緩和されるだろう。実際に待合スペースが区分されている例もあるが、どちらかと言うと上級会員が座る椅子をリザーブしておくという趣旨のようで、それならラウンジが充実された方が良い。5つある搭乗グループごとにスペースを分けるとなると、場所の確保や入口での振り分けに要する人件費などの点で、コストに見合ったメリットを見出し難そうだ

やはり機内持ち込み荷物の改善に取り組まなければ搭乗の混乱を解消することは難しいだろう。機内のスペースには限界があり、収納スペースを広げることは容易ではないだろうから、なるべく多くの荷物を預けてもらって機内持ち込みを減らした方がよい。預け荷物の有料化は、この点では完全に逆行している。搭乗に多少余計な時間がかかっても、収入を増やした方が利益につながるということだろうか。

【ベーシックエコノミーに解決のヒントが】
他方で、ベーシックエコノミーの導入は方向としては改善に向けた取り組みである。最近広がりつつあるベーシックエコノミーでは、預け荷物を有料としつつ機内持ち込みの規定は通常のエコノミー料金と同様とするのが一般的だが、ユナイテッドはこの点で他社よりも一歩先を行っているユナイテッドのベーシックエコノミーは、キャリーバッグ持ち込み不可で、前席下に収納可能な身の回り品のみを持ち込むことができることになっている(マイレージプラスプレミアとスターアライアンスゴールドは例外)。そして、ゲートまで持ってきてしまったら、その場で預けることとなって、正規料金に25ドルの手数料が加算される。これによって、機内へ持ち込む荷物を減らしたら割引するという扱いに近い状況が作り出されている。問題は、ベーシックエコノミーが他の様々な制限とセットになっていて、レガシーキャリアを選ぶ利用者であれば選択しないであろう内容になっていること。特に、上級会員にとっては資格マイル(ドル)やエコノミープラスへのアップグレードが無い運賃であることは大きなマイナス。これではLCCの方を選んでしまうだろう。また、ゲートで搭乗券をかざしたときにチェックできるようになっているとは思うが、実際にどの程度まで厳格に実施できるかという問題もある。
アメリカンは、これまでユナイテッドと同様の規定であったが、9月5日からベーシックエコノミーでのキャリーバッグ持ち込みを可能とした。これは、もちろん利用条件緩和として歓迎されており、ベーシックエコノミーに伴う各種制限の中でも荷物持ち込み制限が相当不評だったであろうことがうかがわれる。また、キャリーオンを持ってきてしまったベーシックエコノミーの乗客にゲートでチェックインさせるために時間がかかっていたことも指摘されているが、トラブルも多発していたのだろう。

【機内持ち込みの有料化】
ベーシックエコノミー式のキャリーオン無しで実質値下げという手法が不人気でスムーズなゲート業務の妨げにもなるとすれば、原則と例外を逆にしてはどうだろうか。つまり、キャリーバッグは原則機内持ち込み不可とした上で、有料制で持ち込み可能にするのである。なお、これはベーシックエコノミーに限定した扱いではなく、エコノミー全運賃を通じての扱いとして考えているもの。ベーシックエコノミーについては、制限の多さから考えてベーシックエコノミーを払ってわざわざレガシーキャリアを利用することには大きな疑問があり、別の問題として考えたい。
具体的なやり方としては、色付きで日付と便名が大きく記載されたタグをチェックインの際に購入し、このタグを付けたキャリーオンのみ機内持ち込みを可能とするのである。ファースト・ビジネスクラスや一定以上のステータスを持つ会員にはタグを1枚配布するようにして、タグ不要の対象者には一定のマイルを加算するようにすると持ち込み荷物は更に減らせるだろう。さらに進んでタグの個人間売買を認めても良いだろうが、さすがにやり過ぎか。

【大前提として預け荷物ハンドリングの向上が必要】
このようにして、機内持ち込みをディスカレッジしてチェックインに誘導していくことは、預け荷物のハンドリングを向上させることが大前提。速く、正確に破損させずに荷物を届けるようにしていくという当たり前のことを当たり前にやるようにしていくことだ。そうでなければ、余程のインセンティブを用意しない限り乗客は荷物を預ける気にはならず、機内持ち込みをやめないだろう。そして、ハンドリング向上のためには、航空会社だけではなく空港運営者の取り組みが不可欠だが、これが荷物ハンドリングが改善しない一因だろう。現状では空港運営者にとっては荷物取り扱い量が増えるだけでメリットは薄そうだ。ハンドリングに伴うフィーを値上げすることで空港運営者にインセンティブを与えることは可能だろうが、あまり高くし過ぎると他の空港にハブ機能が移ってしまう。最終的には航空券のコストに反映されることになるので、預け荷物のハンドリング向上は、広い意味での航空業界を挙げて取り組むべき課題である。

【まとめ】
搭乗方法については、実証的にも学術的にも様々な議論があり、各社試行錯誤を繰り返してきている。ユナイテッドが特に優れているとも、逆に劣っているとも思わない。今回のように試験を行った上でやり方を変える取り組みは重要なことだ。ただ、若干小手先の対応に見えることは否定できず、やはり荷物ハンドリングの向上を通じて機内預け荷物を減らしていくことに取り組んでほしい。

 

【搭乗グループ分けの見直し】
今回の搭乗方法の変更では、目立ちにくいがグループ分けの変更があり、実はこちらの方が重要かもしれない。
事前搭乗は、障碍者、現役軍人、グローバルサービス、乳幼児連れ等が対象となっているが、現役軍人が制服を着用しているか否かを問わず事前搭乗の対象になった他、マイレージプラスのプレミア1Kがグループ1から事前搭乗対象に昇格した。

【他社ゴールドの扱いがややマシに】
グループ1では、マイレージプラスのプレミア・ゴールドとにスターアライアンス・ゴールドがグループ2からグループ1に昇格した。この変更は地味だが大きなメリットだ。これまで、スターアライアンス・ゴールドは、スターアライアンス・シルバーや提携クレジットカードホルダーと同じグループ2とされ、自社プログラムであるマイレージプラスのプレミア・プラチナにならない限りグループ1には入れなかった。これは、他社ゴールド相当の会員にユナイテッドを使う気を起こさせなくなる点の1つであったが、一歩前進。
そうは言っても、他社ゴールド相当での搭乗だったらまだまだアメリカンの方が優位。これについては実際に両方使ってみた結果を踏まえてそのうち整理しておこうと思う。

 

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