ジェット・エアウェイズが運航停止

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ジェットエアウェイズが運航停止

インドの民間航空会社であるジェットエアウェイズが、4月17日をもって全便の運航を停止した。1993年に設立されたジェットエアウェイズは、1991年の航空自由化当時に設立された会社としては唯一生き残っていた会社だが、とうとう運航停止に追い込まれてしまった。インドにいた頃は、ジェットエアばかり乗っていたし、休暇での国内旅行はジェットエアの飛んでいるところから行先を選んでいた。エアインディア(とインディアンエア、アライアンスエア)に比べると、機材が新しく綺麗なのはもちろんだが、定時性や機内サービスの質が全く異なり、インドの航空業界に革命的な変化をもたらした会社だった。インドに出張してくる人たちからは「この9Wっていうの大丈夫なんですか?」とよく聞かれたものだが、実際に使ってもらって問題はなかったし満足度も高かった。
インドから離れて目にする機会もなかったが、国際線にも進出してシンガポールやロンドンでジェットエアの機材を目にしたときには、頑張ってるなぁという気になったものだ。
インド民間航空会社の代表選手として成長してきたジェットエアも、環境の変化には対応できず、100機を超えるフリートも資金繰りのために徐々に縮小し、危ないのではないかとの観測が流れていた。今年に入ってからも路線網が縮小し、運休する路線が徐々に増え始めていた。そして、とうとう全面的な運航停止に追い込まれてしまった。

ジェットエアウェイズ破綻の背景は?

2006年までの躍進

ジェットエアは、デリー・ムンバイといった幹線を中心に、737に絞って定時運行率とサービスの高さを追求して支持を広げていった。インド政府の方針として、利用率が高く利益が期待できる幹線だけではなく地方路線も開設することが求められたようだが、かえって路線網が充実することとなり、高い評価のおかげでシェアは高まっていった。

ジェットエアを破綻に追い込んだ5つの要因

迷走の始まりはエアサハラの買収

しかし、2006年にエアサハラを買収したことがジェットエアにとっての転機となった。500米ドルで買収したエアサハラを、当初はセカンドブランドとして位置付けたが、本体と明確な違いを打ち出すことができず、結局は全てのフライトをフルサービスにしていくことになってしまった。

LCCの出現により追われる立場に

設立以来、エアインディアに挑戦していく立場にあったジェットエアだが、2005年から2006年にかけて、インディゴ、スパイスジェット、ゴーエアといった国内線LCCが相次いで誕生したことで、立場は変わってしまった。航空自由化から十数年を経てほぼ唯一の成功した民間航空会社として高い評価を得てきたためLCCに対する警戒意識を弱らせてしまい、第2の波に対して明確なビジネスモデルを打ち出すことができなかった。

財務体質上の構造的問題

民間航空会社の旗手として国際線にも積極的に展開し、積極的に拡大を図っていったジェットエアだが、財務体質は決して盤石なものではなかった。設立して10年を超えてくると、どうしても高コスト構造にならざるを得ない。さらに、機材調達のみならず日常的な燃料の購入はドル建てになるという財務上の問題からは逃れられない。原油価格が上昇したことに加えて、インドルピーがジリジリと減価してきたことは、ジェットエアにとって大きな痛手となった。

創業者の発言力が強すぎた

ジェットエアの創業者であるナレシュ・ゴヤルは事実上の経営破綻に至るまで支配権を手放さなかった。今年69歳のゴヤルは、この3月末にようやく退任し、それまでの間、家族保有分を含めて過半数の株式を保有し続けていた。その結果、意思決定の透明性が損なわれるとともに、立ち上げからの成功体験がLCC登場に対応した航空新時代のビジネスモデルの構築を妨げる結果となった。

明確な戦略パートナーの欠如

ゴヤルの発言力が強すぎたこともあって、戦略的な投資パートナーや航空業界でのアライアンスパートナーを作ることができなかった。一時はタタグループの資本参加も検討されたようだが実現せず、24パーセントの出資をしているエティハド航空も本格的な再建にコミットすることには及び腰である。また、営業面でもマイレージプログラムでの提携やコードシェアは行なっていたものの、安定したパートナー関係の構築には至らなかった。その間にエアインディアはスターアライアンスに加入して世界的なマーケティング力を高めている。

ジェットエアの今後は

今回の全面運航停止は、事実上の破綻と受け止められており、ジェットエアがかつてのようなインド民営航空会社の雄としての輝きを取り戻すことは難しいだろう。普通に考えれば、路線の権利を安く買い叩かれて、事実上別会社として再出発することになる。
しかし、インドでは今月から来月にかけて5年に一度の総選挙が実施されている。今回のジェットエアの運行停止では、予約・支払い済みの航空券を持って途方に暮れている多数の乗客がいるのみならず、このままジェットエアが破綻すると23,000人の失業者が生じてしまい、これを放置すれば社会問題に発展するであろう。さらに、民営航空会社を代表するジェットエアの破綻は経済改革路線そのものへの疑問まで呼び起こしかねない。
こうした背景もあって、ジェットエアの経営破綻は一民間企業の問題にとどまらない広がりあるものとして捉えられている。モディ政権は、SBI(ステート・バンク・オブ・インディア)に救済策の検討を行わせている。今のところ具体的な解決は視野に入ってきていないが、今後の動向からは目が離せない。
ジェットエアがかつての輝きを取り戻すことは困難であろうが、黎明期のジェットエアによる定時性確保やサービス向上への取り組みは他社も含めて根付いてきており、ジェットエアが破綻したからといって逆戻りすることはできない。インドはプライスコンシャスでもあり、インフラの面でも質の高い安定したサービスを提供することはコスト的にも容易ではないが、巨大な市場規模を有するインドで民営企業を含めた健全な競争によって安全で質の高い航空サービスが提供されることを期待したい。

 

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